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謎が謎を呼ぶ「永楽音源」

たまたまメルカリで購入した1枚の中古CD。何気なく再生したところ、何と「永楽電気」製造と思われてきたメロディー群のマスター音源が収録されていました。確かに「永楽電気」製造とされてきた曲目がジャケットに掲載されていたのですが、フォロワー企業の音源集くらいだろうと考えていました。
「すみれの花咲くころ」はJR那須塩原駅の再生速度が収録されていたり、北条鉄道や高知県安田町で使われていたチャイムの曲名が「あこがれ」、「蘇我1番」の曲名は「故郷(ふるさと)のいこい」と判明するなど、思わぬ収穫もありました。これで一件落着。「永楽電気」製の駅メロは全ての曲名が判明しただろう、と。

ところが、CDのジャケットを確認すると「永楽電気」の名前はどこにもなく、「制作著作 ○○ナショナルシステム」とあります*1。National?!
確かにNationalはJR東日本に放送装置を納入してきた企業ですが、一体この曲群と何の関係が…。
一旦は解決したと思った「永楽音源」の全て。ところが、そんな甘いものではありませんでした。そこから、「永楽音源」の掘れば掘るほど増えていく謎との付き合いが始まりました。

謎1 メーカーの謎
これまで永楽電気の放送装置に組み込まれることが多かったことから、「永楽電気」製と思われてきたあのメロディー群。思うと、組み込み放送装置=音源制作メーカーと直に決まったわけではありませんでした。「東洋メディアリンクス」製と思われてきた「Gota del Vient」や「Water Crown」がカンノ製作所製造の装置に組み込まれてきた例もあります。逆の図式で言うと、永楽電気製の放送装置に「ユニペックス」製の「春」や「せせらぎ」、井出氏作曲の「ミュートピアノと鈴の音」が組み込まれた例もあったわけです。つまり、放送装置と発車メロディーメーカーの等号は必ずしも成立してきたわけではありません。ここが盲点でした。1990年代はともかく、2000年代に入るとPanasonic製の放送装置に更新されたJR館山駅で引き続き「永楽音源」が用いられるなど、イレギュラーも増えていきます*2。JR箱根ケ崎駅もそうです。Panasonic製の放送装置に差し替えられても、発車メロディーは引き継がれました。JR以外に目を向けて北神急行電鉄の車内放送を考えてみると、永楽電気は車内放送装置を製造していません。これも不思議です。
「永楽音源」をより一層魅力的にしていた例に各地の防災行政無線や自治会有線放送等による音楽時報があります。例えば北海道中標津町12時の「緑の風」、高知県安田町の各音楽時報、愛媛県四国中央市の各音楽時報、山口県下関市吉見地区の「緑の風」、・・・。
音楽時報は定時に放送する必要があるため、「プログラムタイマー」や「プログラムチャイム」と呼ばれる、時計と連動して動作するPA装置が必要です。ところが、これも永楽電気は製造していない。
ここまでをまとめると、
鉄道会社向け:これまで信じられてきた永楽電気の放送装置組み込み=永楽電気が音源の制作メーカーと考える図式には疑問が残る。
各自治体や自治会向け:主に鉄道会社に製品を納入してきた企業である永楽電気は、ノータッチの可能性が高い。

一般に発車メロディー向けに制作された楽曲は短くて5秒程度〜長くとも20秒程度と一定の秒数に収まります。電車の停車時間に合わせて発注・制作されるからです。ところが、「永楽音源」は短くとも40秒程度*3、長いものでは70秒近くもあります*4。発車メロディー向けに制作された楽曲とするには無理があります。主に鉄道会社に納入する永楽電気が発車メロディーに特有な制作条件を無視して編曲するとは考えにくい。
とすると、あのメロディー群は「永楽電気」ではなく、「National」もしくは「〇〇ナショナルシステム」が発注した可能性が高い。とはいえ、まだまだ「永楽電気」の可能性が残ります。いわゆる「状況証拠」に過ぎないからです。では、なぜ永楽電気製の装置に大量に組み込まれていたのでしょうか。

謎2 組み込みの謎
これには大人の事情があったとか。これ以上は言えません。

謎3 速度の謎
所有する原盤の再生速度は「すみれの花咲くころ」がJR那須塩原駅のものでした。例えば、三鷹市役所の「緑の風」や「すみれの花咲くころ」、鳥取県庁の「ふるさと」や「アマリリス」とは若干再生周波数が高く設定されています。ところが、JR東日本に初期に導入された「永楽音源」は三鷹市役所や鳥取県庁のものから再現すると、非常に難しい。私の所有する原盤からですと1.3倍速や1.75倍速等非常にキリのいい数字で周波数変更すれば容易に再現できます*5。ところが、JR箱根ケ崎駅で採用された「すみれの花咲くころ」は三鷹市役所と同じものです。JR白岡駅やJR新白岡駅も同様です*6。おそらくJRに納入された音源は2種類あり、
1 私の所有する原盤と同じ再生周波数のもの。
2 私の所有する原盤とは若干再生周波数を下げたもの。
ではないかと思われます*7

謎4 音質の謎、あるいは所有原盤の作成時期の謎
「永楽音源」を特徴づけるサウンドとしてバックのホワイトノイズが挙げられます。そのホワイトノイズは私が所有する原盤でも確認できました。
しかし、私の所有する原盤は、一部の採用箇所で耳にできるものと比べて若干音が貧弱です。また、「希望の鐘 チューベルタイプ」や「すみれの花咲くころ」に至っては音割れを起こしています。
例えば三鷹市役所の「緑の風」と私が所有する原盤の「緑の風」を比較すると、三鷹市役所の方が音質がいい。「すみれの花咲くころ」は音割れは起こしていません。
おそらく私が所有する原盤は三鷹市役所のものより劣化したテープからマスタリングしたのだと思われます。また、ホワイトノイズの向こうに同じ音源が低い音量で裏被りしています。これは古くなったテープでしばしば見られる現象です。「制作著作」と銘打った企業が、ジャケットの名称を名乗っていたのは1994年1月から2008年10月まで。時期からしても古くなったテープから起こしていた可能性が高そうです。
ただ、JR赤羽駅5番線や6番線で採用された「牧場の朝 Type.1」や「アマリリス」は私の所有する原盤と比べてかなり劣化した印象を受けます。例のホワイトノイズを波形処理で削除した結果でしょうか?。
とすると、先にあげた1と2以外に3あるいは4の納入音源群がありそうです*8

謎5 他社所有の謎
YouTubeを徘徊していると不思議な動画に出会いました。「ウェストミンスター・チャイム」の様々なアレンジを収録しているようですが、、、


www.youtube.com


なんと「希望の鐘 エレピタイプ」と「ノートルダム寺院の鐘」の周波数低めバージョンが収録されている!。投稿者の方によるとノボル電機のものだそうです。一体なぜ・・・。

この1年、掘れば掘るほど謎が深まる「永楽音源」。そうです。実は編曲者が誰なのかさえ未だに分かっていません。でも、National/Panasonicに関係のある音源群であることだけは明らかになりました。JR赤羽駅5番線や6番線で2010年代に新規採用があったことに鑑みれば、まだ所有している可能性は否定できません。

そして一般販売へ…
小生、動きます。

*1:社名が一部黒塗りになっていたが、該当する企業は容易くGoogle検索から発見できる。

*2:音源の規格化があり、各社の放送装置で音源読み取り部が統一された可能性もあるが、それは2000年代以降になって初めて観察できる現象ではない。

*3:「牧場の朝 Type.4」、「歓びの歌」や「野ばら」等。

*4:「アマリリス」、「浜千鳥」や「すみれの花咲くころ」等。

*5:もちろん駅で耳にするメロディーは駅の自動放送装置の調子に左右されるのか、完全に同じというわけには行かない。例えばJR立川駅4番線や6番線の楽曲は実際と若干異なる

*6:音質に細かい差がある。JR箱根ヶ崎駅よりJR白岡駅の方が音質が良い。

*7:ただ、再生音質の差から第3,第4の音源があるかもしれないが…。

*8:JR館山駅最末期の「浜千鳥」も原盤そのままだが、音質は劣化しておらずホワイトノイズもそのまま。これも謎だ。