過度に適度で遵当な

在日日本人

企画

昨今はゆるキャラがブームである。
かつて似たような状況がなかったかしら?と思いつつも思い当たる節がなかなかないだけに、どうやらそういうことは無かったのだろう。流行のちからは恐ろしい。テレビ番組を見ていたら有名なゆるキャラを、毎日一度は必ず目にすることになるだろう。ゆるキャラはいま飽和状態に陥っているように見える。食傷気味とも言えようか。

ところで、JRの飯田橋駅を利用すると鯨を模したような駅のオリジナルキャラクターに出会うことが多い。旅行企画パンフレットの紹介は必ず彼が行っているし、みどりの窓口や改札口においても、彼が敬礼しているお姿を拝見することができる。どうやら、駅の紹介によると「いいだべい」というらしい。JR飯田橋駅周辺の歴史にちなんでいるようで、ちかくの小学校に通う学童と勤務する美術教員の作成した、なんともかわいらしいお姿をしている。不思議なことに、もう一人?いるキャラクターの「いーちゃん」にはなかなかお目にかかれない。それほど、いいだべいは駅の顔として相応しい働きをしている。

ほどなくしてJR飯田橋駅を通りがかると、3月ということもあり、定期券販売の混雑に対する告知があった。拝読すると、「券売機械で定期券を購入すると、レシート持参で駅前にあるコーヒーチェーンで300円以下のドリンクが無料」というものであった。なかなか愉快な企画である。先入観もあろうが、半公営企業のJRが駅前近隣の異業種店舗とタイアップし、どちらかが身銭を切ってこのようなちょっとした購買意欲を刺激するイベントを行うとは、飯田橋駅も思いきったことをするものだと驚嘆してしまった。
確かに「よくあることだ」との意見もあるだろうが、このお堅い世界でその「一般」を実現するのはよほど苦労や乗り越えるべき壁があったのではないだろうか。自分もこの駅で更新しようと思ったが、残念ながらPASMO+私鉄路線のみの定期券であったために発行は出来なかった。ひょっとしてタイアップ先のコーヒーチェーンはJR資本であったのだろうか。
好評だったのだろう、このあとしばらくしてから、JR東京駅で似たようなタイアップ企画が行われていた。内容の記憶はさだかではないが、恐らくは前記JR飯田橋駅での企画が予想以上にJRの内部で大きな反響を起こしたらしい。そういえばきょうもJR水道橋駅で特急券の一定額以上事前購入でオリジナルグッズプレゼント、というポスターを見かけた気がする。


都心の駅とはいえ快速は停まらない小さな駅で、このように意欲的な企画が駅係員の中から発案され、それを実行にうつす管理職の姿は参考にするべきものが多い。活動的で風通しのよい組織からは妙案が次々に生まれてくるものだ。もしや、外には出てこない、目に見えぬまでも、内部では様々な改善策が生まれ、そして実行されているのかもしれない。だがしかし、このアイデアが他の多くの駅で実行されたとしたらどうだろうか。飯田橋駅は一般にはあまりメジャーな駅とは言えない。そのうちに埋没してしまい、意味を抹消される未来もあるやもしれぬ。東京駅や水道橋駅でみたポスターは飯田橋駅の姿勢に東京各地の駅で追随する動きをまさしく体現している。


組織の真価が発揮されるべき場合はまさしくその時であろう。例えば新宿駅や上野駅、品川駅、渋谷駅などで先の例にならった企画が実行にうつされたとき、飯田橋駅のスタッフは何を考え、どんな意を創作するだろうか。もしかしたら、先にあげた案以上に“愉快”で“斬新”なアイデアを造り上げるかもしれない。それだけの力はあるのではないか。

いま、JR飯田橋駅は東京でいちばん熱い駅である。