過度に適度で遵当な

在日日本人

原盤を探して

日本の街を歩いていると、正時あるいは夕方の時間になると音楽が響き渡る。

こうしたチャイムを耳にすることが多いと存じます。

たとえば、12時になると「恋は水色」や「エーデルワイス」。夕方になると「夕焼け小焼け」、「家路(新世界より・遠き山に日は落ちて)」、「ふるさと」などなど。思い出せば聞いた記憶がある方がほとんどではないでしょうか。

これらのチャイムは市町村が運営している「市町村防災行政無線」と呼ばれるシステムを利用して流されています。現在、日本の自治体では7割以上に設置されており、有線放送も含めると、おそらく半数以上の自治体でこうしたチャイムを流しているのではないかと推察されます*1

こうしたチャイム。毎日決まった時間に子局と呼ばれる電波塔を稼働させることで、平時から故障等のチェックを行うことが目的であるとされています。こうしたチャイムに着目してみると、例えば農業漁業などの一次産業に従事している住民が市町村の50%以上だと、朝間や正午にも流されるようになる、など地域の主とする生活スタイルを可視化する効果があったり、こうしたもの掘っていくといろいろ興味深いものがあります。しかし、今回はそれが目的ではありません。

さて、これらのチャイムはもちろん原盤があり、それらの流す媒体から、多くの場合、2タイプ4類型ほどに分類することが可能です。
Aタイプ 打鐘式
…旧東京都三鷹市など

Bタイプ 音源式
納入機器の音源を利用したもの
…東京都千代田区、東京都墨田区、東京都江戸川区、東京都立川市、東京都小平市など

演奏を収録したもの
…東京都三鷹市(打鐘式を録音)、東京都港区(自治体職員の演奏を録音)、東京都小金井市と埼玉県吉見町(どちらも現地関係者が演奏)など

市販あるいは業務用CD、もしくはwebサイトから引用したもの
…東京都大田区、東京都足立区、東京都墨田区(旧)、東京都葛飾区、東京都練馬区など

Aタイプの打鐘式は名前の通り、鳴らした鐘の音をマイクで拾い、それをチャイムとして流す方式です。デジタル化前の東京都三鷹市があげられます。まさに「チャイム」というべき方式です。youtubeなどの動画投稿サイトで、この方式の実演を見ることよできます。

Bタイプの音源式は、CD、ROMカード、レコードやテープなど録音媒体は問わず、記録したメディアを再生している方式です。その中でもさらに3つの類型に分けることができます。上記に記したように、
① 機器備え付けのもの。
② 自治体職員や学校の生徒、あるいは現地の住民などが演奏または制作した音源。
③ 市販のレーベル、あるいは業務用レーベルからおこしてチャイムとしているもの。
のそれぞれです。
①については、インターネット上で愛好者のみなさんがyoutubeあるいはブログ等に調査結果を発表されていることもあり、ここでは扱いません(みんなやってるしおもしろくないでしょ。)。
②も同様です(おもしろくないでしょ)。
そして残った3番目の「市販レーベル」発掘、今回はこれを扱います。

どうもマニア心に、こうした原盤をそのまま聞いてみたい、という希望があります。
それこそ「君し踏みてば 玉と拾はむ」の精神です。我ながら謎の好物と原動力だ。

防災行政無線のミュージックチャイムは、聞いた住民にすぐわかる必要があるためか、「ふるさと」「夕焼け小焼け」「ウェストミンスター・チャイム」など、なじみ深い音楽が用いられている場合が多くあります。また、単に鐘を模したチャイムだけではなく、オーケストレーションされた曲が用いられていることもあります*2。そのほかにもジャズ風にアレンジされた楽曲や歌入り歌謡を使っている自治体など、バラエティに富んでいます。こうした楽曲、特に「ふるさと」や「夕焼け小焼け」の民謡あるいは唱歌などは、大手レコード会社のレーベルからオムニバス形式のCDが発売されており、そのレパートリーにオーケストレーションされたものもあります。くわえて「アニーローリー」や「家路(新世界より・遠き山に日が落ちて)」などの西洋音楽は、ネームバリューも高く、国籍を問わず、クラシック楽団が演奏したCDも数多く発売されていることは言うまでもありません。
偶然にも、オリジナルのミュージックチャイムを用いている中に、そうしたCDから抜粋あるいは編曲したミュージックチャイムがあることを知り、こうした音楽の原盤発掘を現在行っています。これが思いのほか興味深く、童謡とそれにまつわる資本や芸術家たちの思惑、というのは奥深いものがあるのだと実感します。21世紀で主に歌われている童謡は、明治時代あるいは大正時代にかけて、西洋音楽と西洋文芸(散文詩)の影響下のもとに作曲されたものが数多くあります。こうした西洋芸術を受容したうえで作られた音楽が「オーケストレーション」され、それが「抒情」「懐古」としてラべリングされている。そうしてみると、日本の童謡と「舶来の音楽」を受容吸収していった過程、というのは密接な関係にあるのだな、と考えてしまいます。専門家でもないのでやめておきましょう。

さて、いま用いている探索の方法(ノウハウというほどのものでもないのですが…)を以下に紹介いたします。
A 機械判定
 …youtubeの機械判定を利用する。*3
B インターネット検索
 …ショップ、通販サイト、itunes等音楽配信サイトやCDジャーナルの楽曲検索を利用する。
C レーベル調査
 …Bの漏れを補うため、大手レコード会社のレーベルについて過去の分から調査する。*4
D 公立図書館
 …楽曲使用自治体の図書館を調査する。*5

の4例です。
大した方法でもないのですが、こうした作業を続けることで、童謡やそのオーケストレーションされたCDのリストアップをこなし、原盤発掘につなげていければ…いいなあ。そのほかにも、日本コロムビアであれば「実用シリーズ」と銘打った、様々なシチュエーションに対応したオムニバス形式の童謡インストCDもあり、こうした方面もリストアップしていかないと~と唸っているところです。
ただこの方式で行くと大手レーベルの楽曲はおおかたで網羅できるのですが、漏れは否めません。いっぽうで中小レーベルの楽曲だと、なかなか反映することが難しくなってしまいます。また、探索の性質上、悉皆調査ということもあり、どうしても時間がかかってしまいます。時間がかかる分には構わないのですが、今後は市販レーベルではない、業務用のレーベルにまで手を広げることも必要です。いち素人がそこにたどり着くまで、いま以上の根気が必要となってくるでしょうし、軍資金の目星もつけないとなりません。そちらが続くかどうか、いや、続けますが。


それでも現在、youtubeに1自治体の原盤動画をアップしております。それに加え、この1週間で2自治体1地域の原盤を発掘したこともあり、準備が整い次第アップロードをしていきたいと考えいます。

ところで、埼玉県新座市・鴻巣市・熊谷市、東京都清瀬市で用いている、あのジャズ風アレンジはどこのレーベルなのか。これらと同じコンセプトで作られたと思しき「富士の山」が使われている場所を静岡県で確認した、ということもあり、おそらく広く流通していたレーベルのものなのだろう、とは推察できます。新座市の機器納入会社がNationalであり、かつて傘下でもあった松下(National)-日本コロムビア路線が怪しいのではあるんですが。

ひきつづき、原盤を発掘しだいご報告ができればと存じます。




うーん。無職になったのに何やってるんだか。

*1:管轄する総務省のサイトによれば、現在全国で約8割の自治体がこのシステムを利用しています。各地域でばらつきがあり、首都圏では約92%の自治体が導入しています。 総務省 電波利用ホームページ | 防災行政無線

*2:たとえば東京都足立区、東京都練馬区、埼玉県鶴ヶ島市など

*3:youtubeの著作権管理で用いている判別機能で、時折、アップロードされたミュージックチャイムの原盤が明記されていることもあります。

*4:日本コロムビアやビクターエンタテイメント、キングレコード等老舗は豊富な制作事例があります。

*5:実際に神奈川県のある自治体では、公立図書館のCDから抜粋しマスターを作成した例もあります。